12 約束
さて。
無事アンナマリーの手から逃れた俺達は、とりあえず王都ファルリーザを離れた。
夜も遅かったが夜行列車に乗り、隣の街へ。
理由など無い。
ただ、あんな事があったばかりのファルリーザで宿を取る気にならなかっただけだ。
ホントならもっと遠くの街へ逃げるべきなのかもしれないが、列車が無くては話にならない。それに、あれだけイグドラシルの力を見せつけておけば、二度と俺にちょっかいを出そうなんて思わないはずだ。
ま、本音を言えば、一刻も早く横になりたかっただけなのだが。
駅を出て宿を探す道すがら、俺は思い切ってジーハーに声を掛けてみた。
「ん?」
「・・・実は俺、今日体調いいんだ」
「そうなのか?」
「ああ。最近クスリ、飲んでないからな」
「ふーん。・・・で?」
俺が何を言いたいのかわからず、ジーハーは首を傾げた。
「だから。・・・明日からは、またクスリを飲んで、血を吐く羽目になるだろう」
「ふんふん」
「まあ、そうなる前に。・・・今夜くらいは、その・・・相手、してやらない事も、ない、かな・・・って少し思っているわけだが」
「相手? なんの?」
俺はくしゃくしゃと頭を掻いた。
どうしてコイツはこうもバカなのか。
ここまで言えば、普通わかるだろうに!
「だから! お、お前がどうしても、っていうなら、その、い、一緒に・・・寝てやっても・・・いい、かも?」
「・・・・・・?」
しばらく思案していたジーハーが、ポンと手を打った。
「要するに、ヤらないか? って言ってるんだな?」
俺はそのまま頭を抱えた。
どうしてコイツは、こうもデリカシーがないのか。
そして、どうして俺は、こんなヤツの事を・・・。
「・・・もういい。やっぱやめだ」
「なっ、なんでだよ!? オレ、なにか気に障るような事言ったか!?」
「ふん」
「ちょ、ちょっと待てよ!」
歩き出す俺に、慌てて追いすがるジーハー。
そのまま不届きにも、肩に腕をまわしてくる。
「まったく・・・いきなりヘソ曲げんなよ。ホントはヤりてえんだろ? 素直にそう言えばいいのに」
「だっ、誰が! 俺はお前が『どうしても』って言うなら考えてやる、って言ってるんだ!」
「またまたあ。・・・そっかそっか、オレのチンポが忘れられなくなっちまったんだな。ヨシ、責任取ってやるから、ドーンと・・・」
最後まで言うには、あまりにも無謀なセリフだった。
俺はジーハーの腕を振り解きざま、渾身の力を込めて彼の顎を蹴り上げていた。
いわゆるサマーソルトキック? だ。
そのまま着地し、懐の拳銃を取り出してスライドを引く。
「・・・っ!? 待・・・っ! それはシャレになって・・・」
夜を切り裂いた弾丸は、ジーハーの頭上に消えた。
「避けるな」
「バッ・・・! わ、悪かった! オレが悪かったから! 次弾を装填するのはやめてくれ!」
チッ。
小さく舌打ちし、俺は銃を懐にしまった。
「あ、あっぶねえ・・・つうか、今、ためらいもなく引き金を・・・」
「なんだ?」
「い、いやっ。なんでもねえ!」
まったく。
本気で撃つわけないじゃないか。
とはいえ、今の発言はそう簡単に許せるモノじゃない。
「塩にされなかっただけマシだと思え」
「へーい・・・」
しばらくは許してやらない。
まあ、そんなこんなあったが、俺達はようやくホテルにたどり着いた。
お世辞にも高級とは言い難いが、主人は人のいい性格で、残り物ではあるが食事まで出してくれた。
ようやく人心地付いた俺は、ふかふかのベッドに倒れ込む。
「ああー、ひさしぶりのベッドだー」
「えっと・・・」
「ん? なんだよジーハー」
ふと見ると、ジーハーがその巨体を縮めて、申し訳なさそうにこちらを見ている。
「さっきの申し出は・・・もう、無効・・・なのか?」
「申し出?」
「ほ、ほら。ヤらせて・・・じゃねえ、一緒に寝てくれ、って言ったじゃねえか」
「誰もそんなこと言ってない」
俺はプイとそっぽを向いて冷たく言い放つ。
「そ、そんなあ。なあ、オレが悪かったってば。・・・おめえのほうから誘ってくるなんて初めてだったから、つい調子に乗っちまっただけなんだ。機嫌直してくれよお」
「別に誘ってない。お前がどうしてもっていうなら考えてやるって言っただけだ」
「どうしても!」
俺の言葉が終わるより早く、ジーハーは言う。
「どうしても、抱きてえ。・・・好きなんだ、当たり前だろ」
「・・・・・・」
「いいだろ・・・?」
そっと、俺に覆い被さってきて頭を撫でる。
「・・・・・・」
「好きだ。ノヴィス」
・・・どうしてコイツは、こうも素直に好きと言えるんだろう。
「・・・お前は、俺の事いじめるから、イヤだ」
「いじめてねえよ。ああされるのが好きなんだろ?」
「だっ、誰が!」
「わかった。じゃあ今夜は優しくしてやるから。・・・な?」
本当だろうか?
俺の当惑をよそに、ジーハーの顔がそっと近づいてくる。
「・・・・・・」
俺は、ジーハーのキスから顔を背けた。
「そ、そんなあ・・・」
「汗くさい」
「え?」
「・・・風呂。入ってからじゃなきゃ、イヤだ」
ジーハーの表情が、ぱあっと明るくなった。
先にシャワーを浴びた俺は、体を拭きながらジーハーと交代する。
「・・・ちゃんと綺麗にしてくれよ?」
「おう! 隅々までぴっかぴかにしてくるからな! 逃げるなよ!? 先に寝るなよ!?」
「わかってるよ」
俺が苦笑混じりに答えると、ようやくジーハーは浴室に消えた。
「・・・さて」
右手を見る。
イグドラシル。
いまはおとなしくしているが、その根はすでに肩まで伸びてきていた。
「・・・もう手袋だけじゃ、隠しきれないな・・・」
もちろん手遅れだが、やっぱりジーハーには見られたくない。
俺は荷物の中から包帯を取りだして肩まで巻いた。
片手で苦労して巻き終えると、ジーハーが風呂から出てくる。
「早いな。ちゃんと洗ったのか?」
「おう。バッチリだぜ」
身体を拭くのももどかしいのか、濡れたままジーハーがやってくる。
その股間は、すでにタオルを大きく突き上げていた。
「・・・・・・」
思わずゴクリと喉が鳴る。
「へへへ・・・。ん、その腕・・・」
「あ、ああ。やっぱり、見られたくないから・・・」
「オレは気にしないのに」
「俺が気にするのっ」
「まあ、いいけどな」
嬉々として俺にのしかかり、タオルを乱暴にむしり取る。
「ちょっ・・・」
「へへへ。おめえだって、すっかりその気じゃねえか」
現れたそれをギュッと握り、ジーハーは荒々しくキスをしてきた。
「んっ・・・!」
いきなりで驚いたが、抵抗するでもなく、俺はジーハーの舌を迎え入れた。
そのままジーハーのタオルも解いてやる。
ジーハーはすでに先走りまで垂らしていた。
ジーハーの舌が、俺の全身を這い回る。
思わず漏れてしまう声を抑え、俺はジーハーの背に腕をまわした。
「んー?」
力を抜いて、俺に全体重を預けるジーハー。
重い。・・・けど、その重さが嬉しかった。
彼の体重を堪能するヒマもなく、ジーハーはその太短い指を俺の口に突っ込んできた。
「ほれ。しゃぶってみろ」
「っ・・・」
くちゅくちゅ、と音を立ててジーハーの指を吸う。
彼はそれが嬉しいのか、涎で濡れるのも構わずに俺の口の中をかき回した。
人の舌を乱暴に引っ張り、牙をつかみ、上あごを撫でる。
抵抗など許されず、俺の口は蹂躙された。
その指が俺の口を離れ、下の口へとあてがわれる。
「はっ・・・あ・・・っ」
「へへっ。入れて欲しいか?」
「う、うん・・・」
ず、とジーハーの指が侵入してきた。
口を押さえてあえぎ声を堪える。
「おー、結構簡単に入るようになったな」
そのままグリグリと指を動かして俺をいじめるジーハー。
「はぁっ・・・! だ、だめ・・・っ・・・ああっ!」
「へへ。もう感じてんのか? あ?」
意地悪な言葉に、頬が熱くなる。
「き、今日は、いじめないって・・・ああっ! んっ・・・言ったじゃないか・・・っ」
「いじめてねえだろ。・・・ん? ここか?」
「はっ! あっ、あああっ!」
「へへへ」
その後も、俺はジーハーになぶられ、ベッドの上で身悶えた。
ジーハーの背中に爪が食い込むほど抱きしめる。
「ヨシ。・・・そろそろだな」
ジーハーは指を引き抜くと、今度はその逸物を俺の鼻先に突きだした。
しゃぶれ、ということなのだろう。
もちろん俺はためらいなくそれに吸い付いた。
いつからだろう。これをくわえる事に抵抗を感じなくなったのは。それどころか、悦びを覚えるようになったのは。
「ああ・・・いいぞ、ノヴィス・・・」
先端からぬるぬるした先走りが溢れ、俺は唾液と一緒にそれを飲み込んだ。
しょっぱい。
でも、嬉しい。
「はあ・・・んんっ・・・」
我を忘れて、俺はジーハーを愛した。
やがてジーハーが腰を引くが、逃がさないように追いすがる。
慌てた声が聞こえたときには、すでにジーハーは限界を超えていた。
俺の目の前で、爆発するかのように射精した。
「んっ!」
熱い濁流が、顔中に注がれる。
こぼすのがもったくなくて、俺は慌ててジーハーをくわえ込んだ。
ビクッ、ビクッ、と、ジーハー自身が痙攣し、その都度ドロリとした液体が溢れ出てくる。
「あ・・・わ、悪い・・・出ちまった・・・」
「まったく・・・早いな、もう」
亀頭を綺麗に舐めながら、俺は精液まみれの顔でジーハーを見上げた。
「早いっつうな!」
涙目で怒るジーハーはとても可愛かった。
「よ・・・っと」
顔の上に腰掛けるように体重を掛け、俺を横にする。
そのままクルリと体を回し、ジーハーは俺の股の間に顔を埋めた。
俺の目の前には、いまだギンギンに充血したジーハー自身と、その金玉が垂れ下がっている。
いわゆる、シックスナインという格好だ。
「はぁ・・・」
ため息を漏らしながら、俺はジーハーのタマに舌を伸ばす。
大きなそれを口の中で転がして、吐き出す。だらんと垂れたタマ袋が、たまらなく愛おしい。
ジーハーは、その舌を使って俺の肛門を愛撫していた。
堅くした舌先を入れたり、出したり。そりゃキチンと洗ったけど、汚いなんてカケラも思っていないらしい。
尻を堪能したジーハーが顔を上げ、俺の逸物を下に向けてくわえる。
「い、痛っ・・・」
勃起したアレを下に向けられるのは、正直言って痛い。まあ、中には平気な人もいるかもしれないが、少なくとも俺はダメだ。
「悪い。痛えか?」
ジーハーが口を離すと、俺の逸物は元気に反り返って腹を打った。
「う、うん・・・少し・・・」
「そか。ならガマンしろ」
そう命令し、再び俺をくわえ込むジーハー。
やっぱり痛い。
この体位は男と女専用らしい。男同士、ましてや俺とジーハーほどの身長差があっては、本来の機能を果たさない。
「ジ、ジーハー、痛いよ・・・」
仕方なく俺は身体を下げた。
目の前にはジーハーの腹。俺はジーハーを引き寄せ、その腹に顔を埋めた。
かなり柔らかい。
コイツ、また太ったんじゃないか・・・?
「ん・・・」
おかげでしゃぶりやすくなったのだろう。ジーハーの動きが早くなり、俺は登り詰めた。
イク寸前までしゃぶられて、唐突に攻撃が止む。
「はっ・・・あ・・・はあっ・・・!」
びくっ、びくっと震える俺自身を凝視したまま、ジーハーは動かない。
「ジーハー・・・お、お願い・・・」
あと少し、あと少しで・・・。
じわりと染み出てきた精液混じりの先走りを、ジーハーが舐めとる。
「ああっ!」
それだけで、全身がびくっと震えた。
「イキそうか?」
「う、うんっ・・・イ、イかせて・・・」
「ダメ」
再び湧き出てきた先走りを舌ですくい取り、ジーハーは言う。
「おめえがイッちまったら終わりだからな。まだまだイカせてやらねえ」
そんな。
ジーハーは身体を起こし、俺の足を持ち上げる。
そのまま、尻の穴に指を入れた。
「ああっ!」
「まだまだ楽しませてもらうからな」
体勢を変え、正上位で俺にのしかかるジーハー。
俺は足を持ち上げられ、秘部にジーハーの先端があてがわれている。
「へへっ。ヒクついてるぜ?」
「ううっ」
さんざんジーハーに弄ばれ、ほぐされた俺の尻はもう準備万端。今か今かとジーハーを待っている。
「は、早く・・・」
否。待っているのは、そこだけじゃない。
俺は待ちきれずにジーハーを急かした。
「早く、なんだよ?」
わかっているクセに、ジーハーは俺を貫いてくれない。
どうしても俺の口から言わせたいようだ。
「く・・・」
今日はいじめないって言ったクセに・・・。
「なんだよ。言わねえなら止めちまうぞ?」
クソッ。
俺が正気であれば、こんな屈辱は決して許さないのに。
淫らな気分にされてしまった今では、それさえも快楽に繋がっている。
「い、いや・・・やめないで・・・」
ジーハーだって、ホントは早く入れたくてたまらないはずなのに。
「どうしてほしいんだ? ん?」
「い・・・いれ、て・・・」
「あ? なんだって?」
「くっ・・・。・・・い、挿れて・・・お願い・・・ジーハーが・・・欲しい」
「よしよし」
ジーハーは優しく俺の頭を撫でると、腰に力を入れた。
ぐっ、と圧迫感が強まり、俺はジーハーを迎え入れた。
「は、はあああっ!」
「ん・・・まだちょっとキツイな・・・」
根元まで俺を貫いたジーハーが止まる。
やがて、ゆっくりと腰を引いた。
挿れられる時よりも激しい快感が俺を襲い、俺は乱れた。
「あ、あああっ! ジーハーっ、ジーハーッ!」
再び、ジーハーが奥深く入ってくる。
実にゆっくりしたピストン運動。ヤバイ、壊れてしまいそうだ。
「っ・・・ノヴィス・・・っ」
俺を抱きしめ、耳元で荒い息をしながら、ジーハーはゆっくり腰を振る。
え?
俺を大きく貫き、ジーハーの巨体がビクン、と震えた。
同時に腰の動きも止まり、小刻みに体を震わせる。
「え? ・・・もう?」
しまった。
言ったあと気付いた。この言葉は禁句だ。
「・・・!」
案の定、ジーハーは泣きそうな表情で俺を見つめていた。
そうとう傷つけてしまったらしい。
「あ、ゴメン、そ、そういう意味じゃなくて、二発目だから、もうちょっともつと思って・・・」
って、これじゃ追い打ちだ。
ジーハーは涙すら流しつつ、俺を抱え上げた。
「バ、バカにすんなよ!? ま、まだイってねえからな!」
明らかにわかるウソを付いて、ジーハーは俺を突き上げる。
「あ・・・っ! んんっ!」
いわゆる駅弁スタイルで、俺は再び犯された。
「ふぅっ! は、くっ・・・!」
吐き出された煙が、ゆらりと渦を描いて消える。
俺はジーハーの腕枕から、ぼんやりとそれを眺めていた。
「・・・ジーハー・・・」
「ん? なんだ?」
タバコをくわえたまま、モゴモゴと彼は答えた。
「なんだよ、改まって。・・・いいぜ。何でも聞いてやる」
内容も聞かずに安請け合いするジーハー。
後悔するとも知らず。
「・・・・・・」
「なんだよ? 言ってみろ。どんな願いでも、オレにできる事なら、なんだって叶えてやるぞ?」
タバコをもみ消し、ジーハーは俺の頭を撫でてくれた。
嬉しくて、俺はジーハーにしがみつく。
風呂に入ったばかりだというのに、もう汗くさい。オマケにタバコの匂いもする。
ジーハーの匂いだ。
俺は胸一杯に、その匂いを吸い込んだ。
「オレにできる事なら、な」
「うん・・・お前にしかできない事だ」
「? なら大丈夫だ。約束してやる。オレは、おめえのどんな願いだって叶えてやるぞ」
「・・・ありがとう」
「で? 何がして欲しいんだ? ・・・もう一発やるか?」
ジーハーは新しいタバコに火を付けながら、おどけてみせた。
「――バカ」
「へへへ。・・・で?」
「うん・・・」
間をおいて、俺は告げた。
「・・・もし、俺が天使になって、人をたくさん殺すようになったら。
そのときは、お前のこの手で、
――俺を止めてくれ」
「・・・・・・。
・・・なに、バカな事言ってんだよ」
「俺は本気だ」
沈黙。
ジジッ、とタバコが小さな音を立てた。
「バカ言うな・・・オレに、そんな事・・・」
「できるさ。・・・お前には、それだけの力がある」
再び沈黙。
ジーハーは、答えてくれない。
「・・・できるわけ、ねえだろ」
「頼むよ。お願いだ。――俺、お前になら・・・」
「言うな。そんな事、言わないでくれ」
しかし、ジーハーだって気付いているはずだ。
俺は、身体だけじゃなく、心までイグドラシルに侵蝕されている。
今日の事が何よりの証拠。
俺は、他人を見るようなジーハーの目を思い出して身震いした。
「・・・頼む。俺を、天使にさせないでくれ」
もう俺を、あんな目で見ないでくれ。
「・・・・・・」
長い、長い沈黙。
ゆらりと登った煙を最後に、タバコの火は消えた。
ジーハーの指に挟まれたタバコは、結局一口も吸われることなく、根元まで灰になっていた。
「・・・わかった」
ポトリ。
灰が折れ、ジーハーの胸で砕けて消えた。
「・・・約束してやる。
おめえが天使になっちまったら、オレが、この手で」
「辛い思いをさせて、すまない・・・」
「でも一人じゃ逝かせねえからな。オレも、すぐに」
それはやめて欲しい。
俺はそう告げたが、ジーハーは頑として聞き入れてくれなかった。
・・・でも。
「――ありがとう」